ラヴ・クリニック　第11回　勝手に恋愛相談（その７）

はい、こんにちは。この企画は、 サンマリエという恋愛相談サイトから勝手に質問を拝借して答えてあげようという、きわめてお節介な企画です。今回も、わたしの全身全霊をかけて相談に乗らせていただきます！

■男って浮気し続けるものなのでしょうか？ （39歳/女性） 　10年間不倫していた彼が奥さんと別れ結婚することになりました。私と一緒にいる時には優しい彼で、結婚するのは私しかいないと言っていました。 　しかし、先日若い女の子と浮気していて、仕事やゴルフと言ってでかけているのは全部彼女と会うためというのはわかりました。考えてみれば、私と不倫していたときも前の奥さんに嘘をついて、私と会っていた訳で、今度は私がその立場になったということです。 　こういう男性はこれからも浮気し続けるのでしょうか？　こういう状況で私と結婚しようとする彼が信じられません。1年以上セックスレスで、どうやら、浮気相手以外にも、そういうお店に出入りして解消しているようです。結婚直前にこういう事実が受け止められず、夜も眠れません。

■そのタイトル付けに異議あり！！
　まずはじめに言わせていただきますが、そのタイトルはちょっとナンセンスでしょう。

　「男」と一般名詞を使うのはいかがなものでしょうか。あたかも世の中の男性すべてが浮気するみたいな捉え方をする人が出てきてしまうではないですか！

　オトコもオンナもその一部に浮気をする人がいるわけで、当然ながら全員が全員浮気をするわけではありません。この見出しはおそらく相談した人でなく、編集者がつけたんでしょうが、事実を歪曲するような相談内容と著しく異なるタイトルづけは絶対に避けていただきたいと思います。

■浮気をしない／させない方法
　個人的な見解ですが、浮気をしない／させないようにするには、大きくいって以下の２つの手段があると考えられます。それは

　(1)職場など、空間的・時間的にまったく異性に触れないような環境を選ぶ
　(2)ひたすら理性を維持する

　わたしなんかは理性を維持するために労力を費やすのがイヤなので、(1)を必然的に選ぶんですが、なかなかそういうわけにも行きません。そこで(2)なんですが、なかなか理性を維持するのというのはたいへんなんですね。現実的な話をすれば、いまのパートナーを愛しているかどうかよりも、子どもがいるからとか、慰謝料がかかるからとか、世間体が気になるとか、そういう付帯的な事情が浮気を思いとどまらせる要因になっているようです。なんて夢のない話なんでしょうかね。もっと、こう、ほら、さっぱりとダイナミックにいきたいじゃないですか…って何を言っているんだか訳がわかりませんね。

■『ベルばら』に見る浮気への寛容
　さて、相談内容に入りましょう。今日は実家でこの文章を書いているんですが、自分の部屋に『ベルサイユのばら』が置いてあったのを思い出して、ひさしぶりに読んだのです。これが今回の相談内容となかなかシンクロしていて興味深かったので紹介しますね。ここで紹介するのはオスカルとアンドレのドタバタ恋愛劇ではなくて、ルイ16世とマリ・アントワネットとの悲壮きわまりないお話です。

　物語中のマリ・アントワネットは旦那のルイ16世とはべつに、スウェーデンの貴族であるフェルゼンさんと恋に落ちてしまいます。フェルゼンさんは革命が起きたときにルイ16世夫妻がフランス国外へ逃亡しようとしたのを助けたりもしたいい人なんですが、ルイ16世はこの浮気をあえてずっと見て見ぬふりをしていたんです。ですが、ある日マリ・アントワネットとフェルゼン公の仲を暴露する手紙がルイ16世の目に触れてしまうんですね。そのとき、ルイ16世がしゃべった台詞を聞きましょう。

「あなたがはじめて王太子妃としてこの国に嫁いできたとき……
　愛の女神の祝福を体いっぱいにうけて輝くあなたの明るいかわいらしさは
　どんなにわたしの目にまばゆかったことだろう！（中略）
　あ…あ　それなのにわたしときたら！
　美男子でない上にふとっているしダンスは下手だし気も弱くて…
　貴婦人をよろこばせるような気のきいたしゃれた会話ひとつできない……！
　でも……愛しているのだよ
　いつもほったらかしにしておいたけれど
　わ…わたしが……もう少しスマートで美しくて……
　そしたら……
　そしたら愛しているということばをひとことでもあなたにいえただろうに……
　いえたのだろうに…！
　こんなわたしと結婚して……
　もうふたりの王子も生んで王妃としての義務ははたしてくれたのに
　あなたが女としての幸福をもとめるのを
　どうして非難することができるだろうか……」
　（木にもたれかかって涙するルイ16世）
　（出典：池田理代子『愛蔵版 ベルサイユのばら』第２巻、５〜７ページ）

　いかがでしょうか。単純に申し上げますが、「妻としての義務を果たしたのだから浮気してもOK」、というルイ16世の論理を、あなたにもそのまま適用してみてはどうでしょうか。「夫としての義務を果たせば浮気してもOK」。てか、そういう気持ちじゃないといまどき結婚なんてできないんじゃないでしょうかね。相手がほんとに浮気しちゃったらどうすんの？と言われそうですが、浮気をされたらさっさと別れれば良いんです！　別れちゃったらどうするの？と言われそうですが、そんな時こそ、サン○リエやオー○ムジーみたいな結婚相談サービス（？）をご利用ください。

■恋愛のエチカ
　上に述べたことをそのまま行動に移すと、ただ状況に流されてしまうだけのようにも見えるので、ここでひとつの行動律を提示しましょう。

　大事なのは、相手があなたをどう思っているかはいざ知らず、あなたの主観において、心理的に優位に立っていれば良い、ということです。相手は浮気した。けど、自分は筋を通したという結果であれば、相手が悪く、あなたはぜんぜん悪くない。倫理的にはあなたは一貫して善なのです（ここでいう善／悪は相対的なものです）。相手を倫理的に優位に立たせたくないから、自分は浮気をしない、という考え方も可能になります。

　冒頭で、浮気をしない／させない方法の「(2)ひたすら理性を維持」して浮気をしないように努力するのはたいへんだと申し上げましたが、レベルを引き上げて、(2')「理性を維持しなければ行けない状況に持って行く」ような考え方を身につけてみてはどうでしょう。

　恋愛の基本姿勢はオール・オア・ナッシング。だけど、運悪くナッシングになったときに、オールを再び導き出すためのオプションを前もって用意しておくことが大事――、というのがラヴ・クリニックにおけるわたしの一貫した基本姿勢です。

　ちょっと今回はややこしかったですね。次回はもっと単純明快にお答えしますのでよろしくお願いします。